樹木のこと
長野県中野市にあるとても小さな農園です。
2015年、アジアを巡る旅で出合った田園の風景、そこに暮らす人々の雰囲気に魅せられて、日本に戻ったら農家になろうと決めました。2017年に長野県に移住、2019年に『野菜・米処 樹木』として開園しました。
僕たちが東京で暮らしていた頃の野菜といえば、お金を出してスーパーマーケットや、インターネットで買うもの。良いものを選ぼうとすれば、当然値段は跳ね上がり、「食べたい!」と思ったものを選ぶことができない状況でした。「自分で食べるものは自分で種を蒔こう」そう思ったことも農家を志したきっかけのひとつです。
農業を始めるにあたって選んだ場所は、長野県で最も北に位置する、標高約460mの中野市。昼夜の寒暖の差が激しく、冬は背の丈を越えるほどの雪が降ります。近くには斑尾山や高社山があり、山々に守られたこの土地で年間約70種以上の野菜や米の種を蒔くことにしました。この土地に来て、幸運だったのは村のじいちゃん、ばあちゃんや近隣の農家さんが快く野菜や米作りを教えてくれること。ばあちゃんの言葉で、特に印象に残っていて大事にしている言葉があります。
「ナスと毎日話しをしねぇとなぁ」
野菜作りを教えてくれるのは、先人たちだけではありません。一番には育てている植物たちからの言葉に耳を傾ける。ばあちゃんの言葉はそんなことに気付かせてくれました。そして樹木の野菜、米作りの原点はここにあります。植物達との会話を大切にしていきたいのです。
肥料は植物由来の元気な菌を発酵させて作る自家製の肥料と鶏糞。それと、もみ殻を低温で燻した燻炭。また、刈り取った雑草や生涯を終えた野菜たちは、土に返します。農薬はよくわからないので使いません。
ご挨拶も終盤。最後に僕たちの農園名についてお話しします。野菜・米処なのに『樹木』。そんな紛らわしい農園名を付けた理由とは。野菜や米などのほとんどの作物は、自生する山菜などとは違って、全くの自然界では生きていけない植物達です。そして、また人も野菜や米がなければ生きていけない生き物。私たちは野菜や米が育ちやすい環境を整え、実ったものを享受する。たくさんの生命が共生している大きな樹木のように、植物達と関わっていきたいと思ったことから『樹木』と名付けました。
そして、『樹木』はたくさんの方に助けて頂きながら、成り立っています。食べて頂ける方はもちろんのこと、村の方々にも大変お世話になりました。農機具や資材を譲って頂いたり、土地を貸して頂いたりして、少しずつ農業ができる環境が整っていきました。感謝するとともに、少しの風では倒れない大きな樹木のように、この地に根付いていきたいと思っています。
農業というとても大きな神秘に出合えたことを大切に。
樹木の自慢の植物達。
是非、ご賞味ください。